大動脈弁輪拡張症なら宇都宮記念病院

028-622-1991
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大動脈弁輪拡張症
大動脈弁輪拡張症

大動脈弁輪拡張症は、大動脈が拡張することで心臓と大動脈の結合部にある「大動脈弁輪」も共に拡張してしまう症状です。大動脈弁輪の拡張により大動脈弁の働きが阻害されて心臓からの正常な血流が阻害されます。

大動脈弁輪拡張症は主な症状がなく、知らず知らずのうちに進行することで心臓の機能を低下する心疾患を引き起こす場合があります。

今回は、大動脈弁輪拡張症とはどのような病気か、引き起こされる症状や原因、治療法について解説します。

大動脈弁輪と大動脈弁とは?

この記事では大動脈弁輪拡張症についてお伝えしますが、その前に大動脈弁輪と大動脈弁の役割についてご説明します。

大動脈弁輪の役割

大動脈弁輪とは、心臓の左心室と大動脈がつながる部分にある輪の形状をした線維でできた組織のことです。この弁輪部は心臓骨格と呼ばれていて弁と弁を付着させる働きをしています。

医学的に心室と動脈のつなぎ目(心室動脈接合部)は、左心室の筋組織が大動脈弁輪の弾性のある線維組織に置き換わる部位を指します。

大動脈弁の役割

健康な心臓では、左右の心房及び心室のそれぞれ出口にある「弁」が、心房と心室、また心室と動脈の間に生じる圧力差に応じて開閉しています。

心臓の弁は血液の逆流を防ぐことが主な役割です。通常左心室から大動脈内へ血液が拍出される際は、左心室が収縮するタイミングに合わせて大動脈弁が開くことで、スムーズに血液が流出します。その後左心室は拡張し、左心房からの血液を受け入れますが、その際大動脈弁は、左心室から大動脈に流れ出た血液の逆流を防いでいます。

大動脈弁は心室動脈接合部をまたいだ左心室の筋壁にあります。大動脈弁は3つの弁から構成されていますが、それぞれが大動脈弁輪の働きによってしっかりと弁同士が閉塞することで血液の逆流を防ぐことが可能になっています。

大動脈弁輪拡張症とは?

大動脈弁輪拡張症とは、さまざまな理由により大動脈弁輪が文字通り拡張した状態です。大動脈弁を支えている弁輪が大きくなることで、大動脈の位置が本来の位置と変わってしまい、その結果大動脈弁がしっかりと閉鎖できなくなります。

大動脈弁がしっかりと閉鎖できないと、左心室から大動脈に流出した血液が左心室内に逆流する「大動脈弁逆流症」、あるいは「大動脈弁閉鎖不全症」と呼ばれる状態になります。その結果、さまざまな症状をきたし、進行すると手術が必要となります。

なお大動脈弁から血液が漏れるようになり、大動脈弁閉鎖不全症と呼ばれる状態になると、血液は大動脈から左心室へと逆流し、心臓は過剰に血液に満たされた状態になります。このため、心臓の壁に通常よりも過度に圧力がかかり、その結果心臓が大きくなります。

大動脈弁輪拡張症が原因で引き起こされる大動脈閉鎖不全症

大動脈弁輪拡張症そのものは心室動脈接合部にある弁輪が拡張するだけで、特に目立った症状は発症しません。ただし、大動脈弁輪拡張症が進行すると「大動脈弁閉鎖不全症」が発症して、さまざまな症状を引き起こします。

大動脈弁閉鎖不全症は、徐々に進行するため、何年間も症状がないことがあります。そのため診断が遅れることもあり、大動脈弁閉鎖不全症が悪化したのち、その原因として大動脈弁輪拡張症と診断される場合があります。

そこで、大動脈弁輪拡張症に気づくことができる唯一の症状として、大動脈弁閉鎖不全症の症状について解説します。

大動脈弁輪拡張症の症状〜心不全

大動脈弁閉鎖不全症が進行すると、大動脈に一度流出した血液が左心室に戻ってくることになり左心室に過剰な負荷がかかります。その結果、血液を送り出すことが困難となり、左心房から肺にかけて水分の負荷がかかる心不全状態となります。

心不全に至ると、まずは運動時の息切れ、特に活動量を増やしたときの疲労感や脱力感、足のむくみなどの症状がみられます。心不全の状態がさらに進行すると、安静にしていても呼吸が苦しくなり、横になることもできなくなってしまいます。

大動脈弁輪拡張症の症状〜狭心症

大動脈に流れる動脈血の量が減ってしまうことになり、心臓を栄養する冠動脈への血流不全が起こり、その結果引き起こされる胸痛(狭心症)、不快感、運動中に締め付けられるような胸の痛みが生じるようになります。

さらに、心臓の鼓動が速くなったり、動悸がしたりする感覚や脈の乱れ(不整脈)、またふらつきや失神といった症状があらわれることがあります。

大動脈弁輪拡張症の症状〜大動脈の破裂

拡張した大動脈は、大動脈瘤ができた状態と似ています。したがって拡張し続けるようなことがあれば、動脈瘤が破裂するのと同じく、大動脈弁輪拡張症でも激しい胸痛、意識消失などがみられることがあります。

大動脈弁輪拡張症の合併症

大動脈弁輪拡張症による合併症には、大動脈の内壁が裂けたり傷ついたりする胸部大動脈解離、心臓から体の他の部位に血液を運ぶ動脈の動脈瘤などが挙げられます。動脈瘤が破裂すると、危険な出血や死亡の原因となることがあります。

大動脈弁輪拡張症の診断

初期には明確な症状がないため、大動脈弁輪拡張症を早期に診断することはなかなか困難です。

ただ大動脈弁閉鎖不全による逆流は、早期から心雑音として聴取することが可能です。したがって検診などで行われる診察時の心雑音から、異常が見つかることもあります。

異常を疑われると、通常は心臓超音波検査を行うことが一般的です。超音波を利用し、心臓の動きや形態を確認することができますが、同時に大動脈弁輪の大きさも計測できますし、大動脈弁における逆流の程度も評価することが可能です。

また胸部CT検査を行うと、より立体的に大動脈基部の状態を評価することができます。弁輪部の大きさを、定期的に確認することもできますし、その大きさを元に手術を行う時期を決めることもあります。

心臓カテーテル検査も診断には有用です。この検査では、足の動脈・静脈、あるいは腕の動脈から、心臓の各部屋に向けて細い管(カテーテル)を挿入します。カテーテルの先が左心室内に到達すれば、その中の圧を測定できます。これにより具体的に心臓にかかっている負担を評価することが可能になります。

大動脈弁輪拡張症の原因

大動脈弁輪拡張症は単独で起こることもあれば、「マルファン症候群」や「エーラス・ダンロス症候群」など、結合組織に異常をきたす疾患が原因で起こることもあります。また、加齢や高血圧によっても発症することがあります。

マルファン症候群

大動脈弁輪拡張症は、マルファン症候群を診断する根拠ともなることがあり、密接に関係するものですので、少し詳しく説明しておきます。

マルファン症候群は、全身の結合組織に異常をきたす疾患で、体の成長に影響を与えることがあります。結合組織は、骨格や全身の臓器を支える役割を担っています。

マルファン症候群では、FBN1(フィブリリン-1)遺伝子の異常が生じています。多くの場合は遺伝性です。片方の親がFBN1の変化を持っている場合、子どもは50%の確率でFBN1を持ちます。これは常染色体優性遺伝と呼ばれます。

マルファン症候群のように結合組織に異常があると、骨、筋肉、皮膚、目、血管、心臓、その他の臓器など、体全体に影響を与える可能性があります。結合組織の本来の役割である、組織同士をつなぎ合わせる役割を果たせなくなると、それぞれが緩くつながる、双方の位置がずれやすくなります。

そのため、異常に背が高く細身である、関節の可動範囲が異常に広い、視力、心臓、その他の健康状態に問題がある、などの特徴があります。

症状は軽いものから重いものまでさまざまです。また、症状が現れる時期や進行の早さにも個人差があります。幼い頃に発症する人もいれば、大人になってから変化に気づく人もいます。ただ一般的に早い時期に重い症状が出ると、生命を脅かす可能性があります。しかし、治療によって多くの人が寿命を全うすることができます。

なお大動脈弁輪は、心筋組織から血管の結合組織に置き換わる場所です。マルファン症候群の方は、より強く異常が発生しやすい可能性がある部位であると言えます。

大動脈弁輪拡張症の治療法

大動脈弁輪拡張症には、その進行度合いに応じて複数の治療の選択肢があります。

内科的治療

大動脈弁輪の拡張の程度が軽く、大動脈弁閉鎖不全の進行の程度も軽い場合は、基本的に内服治療で様子をみることができます。この場合、心不全の治療薬として利用される薬剤が選択されます。

例えば心筋の保護作用をもつACE阻害薬やアルドステロン拮抗薬は、初期の頃から使用を開始することが一般的です。そのほかにも強く拍動する心臓を休ませる作用のあるベータ遮断薬、また溜まった水分の排泄を促して心臓を楽にする作用を持つ利尿薬が選択されます。

外科的治療

拡張した大動脈弁輪を根本的に治療するためには、手術が必要です。手術を行うことで、弱くなってしまった大動脈弁輪の強度が増し、血液の逆流も生じなくなります。

手術の際には、拡張した大動脈弁輪を含む、大動脈基部と逆流を起こしている大動脈弁を入れ替える大動脈基部置換術、また自分自身の大動脈弁を温存して問題を起こしている大動脈を修復する、自己弁温存大動脈基部置換術があります。

大動脈基部置換術は、ベントール(Bentall)手術とも言われますが、大動脈と大動脈弁置換の入れ替えを同時に行う手術です。通常は異常をきたしている血管と特別な線維でできている人工血管を入れ替え、また大動脈弁を人工弁に置換します。

この人工弁には機械弁を用いる場合と、ヒトやウシ・ブタなどの組織を利用した生体弁を用いる場合があります。それぞれメリットとデメリットがあるため、手術を受ける人の状況に合わせ、どの弁を利用するかは決定しています。

人工弁の持つデメリットを解消するために考案されているのが、自己弁温存大動脈基部置換術です。デービット(David)手術やヤク−(Yacoub)手術とも呼ばれますが、大動脈弁輪拡張症では、大動脈弁そのものに異常が生じているわけではありませんので、自分自身の大動脈弁を温存して使用することができます。自分の持つ大動脈弁をそのまま利用できることは、何よりも安心できます。また人工弁を使用すると必要となる術後の抗凝固薬の内服は、自己弁温存大動脈基部置換術では不要です。当院の大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生はヤク−(Yacoub)手術を専門としています。

まとめ

大動脈弁輪拡張症の概要、その症状や原因についてご説明しました。

大動脈弁輪拡張症への治療は、循環器内科や心臓血管外科、また画像診断に関わる放射線科や手術時の管理に関わる麻酔科など、複数の専門医が関わっています。マルファン症候群の方であれば、小児科医や遺伝の専門家とも協力が必要です。それだけでなく、高い技術を持つ看護師やリハビリの専門家たちがチームを作って診療にあたります。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に沿い最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。