028-622-1991
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大血管手術
大血管手術

心臓に栄養を与える血管や心臓から全身に栄養を送る大きな血管、心臓の部屋を仕切っている弁などが何らかの原因で障害を起こしてしまうときに行う手術の総称を「心臓大血管手術」と言います。

対象となる病気はさまざまですが、現在では手術により病気を根本的に改善することが可能です。

この記事では大血管手術とはどのような手術か、対象となる病気と適応、それぞれの手術の利点・欠点、手術方法を解説します。

心臓・大血管手術とは?

心臓は私たちの体で生涯絶えず拍動し続ける臓器です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしており、1日に10万回以上休むことなく拍動を繰り返しています。

そんな心臓は4つの部屋と4本の大きな血管で構成されており、肺や全身に血液や栄養、酸素・二酸化炭素を運んでいます。心臓にある4つの部屋はそれぞれ、血液を受け取り次の場所へ拍出しています。各部屋を仕切る弁は逆流を防止する役割があります。

そして心臓から全身に向けて血液を送る大きく太い動脈を大動脈と言います。この大動脈は、体の中で一番大きな血管で、脳や上半身、腎臓、お腹、下肢などに栄養を届けています。

また、心臓の表面には冠動脈と呼ばれる細い血管が周囲を走行しており、冠動脈の中を酸素と栄養が流れることで、心臓をスムーズに動かしています。

これらの血管をまとめて大血管と呼び、私たちの体には欠かせない血管です。しかし、何らかの原因で障害を起こしてしまうと、内服薬での改善は難しく外科治療が必要になります。そこで行う手術の総称を「心臓大血管手術」と呼んでいるのです。

大血管手術が必要となる病気

大血管手術が必要となる病気は、「狭心症・心筋梗塞」「心臓弁膜症」「大動脈瘤・大動脈解離」の大きく3つに分類されます。まずは、これらの病気はどのようにして起こるのか、症状や原因を含め解説します。

狭心症・心筋梗塞

狭心症とは、動脈硬化が主な原因となって冠動脈が狭くなることで、血流の流れが悪くなった状態です。階段や坂道を上ったり、重たい荷物を持ったときなどに、胸を締め付けるような痛みの発作が現れます。

一方、心筋梗塞も主な原因は動脈硬化ですが、心臓の血管に血栓ができて詰まることで、心臓を動かす筋肉が壊れている状態です。血管が詰まると、これまでに経験したことのないような激しい胸の痛みが起こります。また呼吸困難や冷や汗などの症状が現れることがあり、突然死することもある病気です。

狭心症の発作は数分程度で治まりますが、心筋梗塞の場合は20分から数時間程度痛みが持続します。胸に強い痛みを感じ、症状が続く場合にはすぐに救急車を呼びましょう。

心臓弁膜症

私たち人間の心臓は、4つの部屋と4つの弁で構成されており血液の逆流を防いでいます。

しかし何らかの原因で心臓の弁がうまく開閉できなくなることがあります。うまく開かない状態を「狭窄症」といい、うまく閉じない状態を「閉鎖不全症」と呼びます。これらがいずれかの弁に起こっている状態の総称が「心臓弁膜症」です。

主な心臓弁膜症には、以下のようなものがあります。

  • 大動脈弁狭窄症
  • 大動脈弁閉鎖不全症
  • 僧帽弁狭窄症
  • 僧帽弁閉鎖不全症
  • 三尖弁閉鎖不全症

これらの原因は、加齢によるものや先天性の疾患、リウマチ熱の後遺症などがあります。

主な症状は心不全や不整脈で、感染性心内膜炎になりやすいため適切な治療が必要な病気です。

動脈瘤、大動脈解離

大動脈瘤は、心臓から全身に向かって走行する大きな血管にこぶができたり、そのこぶが破裂したりしてしまう病気です。こぶができる原因は、動脈硬化や高血圧、糖尿病、喫煙、ストレスなどさまざまで、外傷や感染などでもこぶができることがあります。ぶができてもすぐに破裂することはありませんが、治療しないまま大きくなるとこぶが破裂して命に関わることがあります。

大動脈解離は、動脈を構成する3つの壁のうち内膜が剥がれて、動脈内に二つの通り道ができている状態です。大動脈解離は、種類によってはすぐに治療を開始しなければ命に関わることもあります。大動脈解離の場合は目立った前兆はなく、突然、胸や背中に激痛などの症状が起こるため、すぐに救急車を呼びましょう。

大血管手術の適応

大血管手術の適応は疾患ごとに異なります。ここでは、狭心症・心筋梗塞、心臓弁膜症、大動脈瘤・大動脈解離それぞれの手術適応を紹介します。

狭心症・心筋梗塞

狭心症や心筋梗塞の手術の有無を判断するには、カテーテルを使った冠動脈造影検査を行います。

2枝以上の病変(冠動脈が2本以上狭いあるいは詰まった状態のこと)がある場合や、左の冠動脈主幹部に高度の狭窄がある場合、カテーテル治療が難しい場合には手術が適切と判断します。しかし、患者さんの病態や既往歴、ライフスタイルなどを考慮して行うため、必ずしもすぐに手術を行うわけではなく、必要に応じてカテーテル治療も行うのが一般的です。

心臓弁膜症

薬の服用による治療を行っても十分な効果が得られない場合や、症状が軽い場合でも左心室の収縮力が低下気味でポンプ機能が低下している場合、弁の狭窄・逆流の度合いが強い場合には手術を行います。

心臓弁膜症のうち、主に手術適応となる病気が大動脈弁と僧帽弁に起きる狭窄症や閉鎖不全症です。

閉鎖不全症では心エコー検査や心臓カテーテル検査でどの程度逆流が起きているかを調べます。狭窄症では弁口面積の狭さなどが手術を決定する指標です。また、それ以外でも運動時の息苦しさや不整脈の程度なども考慮して検討されます。

大動脈瘤・大動脈解離

大動脈瘤では、大動脈の全周が50~60mm以上に膨らんでいる場合や、大動脈壁の一部が突き出るように膨れている嚢状動脈瘤は発見された時点が手術適応です。腹部にできる大動脈瘤は最大径45~50mm以上などを手術適応としています。

動脈解離では、Stanford A型の大動脈解離では状態にかかわらずすぐに手術が必要です。Stanford B型の大動脈解離は、背中の痛みが続く、大動脈が大きくなる、臓器の血流が確保されていない、破裂しているなどの状態があれば手術が必要です。

狭心症・心筋梗塞手術の利点・欠点

狭心症や心筋梗塞で行われるのは「冠動脈バイパス手術」と呼ばれる手術です。

この手術の利点は、カテーテル治療に比べ再狭窄のリスクが少なく、2枝以上の病変にも一度の手術で対応できる点です。一方、冠動脈バイパス手術の欠点は、全身麻酔を使った開胸手術なので手術が長時間に及び、大きな手術跡が治癒するのにも時間がかかるので患者の身体への負担が大きくなる点です。

狭心症・心筋梗塞手術の方法

冠動脈バイパス手術は、全身麻酔を使用した開胸手術です。狭くなったり詰まったりしている冠動脈を挟むようにして、体のほかの部分から取り出した静脈や動脈を末梢血管まで縫合して血流を確保します。

バイパスとして使用する血管(グラフト)は、肋骨の内側にある内胸動脈、脚の大伏在静脈、胃の胃大網動脈、前腕の橈骨(とうこつ)動脈などです。これらは一部を採取してもその部分の機能には影響を与えない血管を使用しています。

手術時間は移植する血管の数に応じて4~6時間程度です。3枝以上病変ある場合では、バイパス・縫合する数が多くなるため手術時間は長くなる傾向にあります。

冠動脈バイパス術は通常、人工心肺装置と呼ばれる医療機器を使って、一時的に生体の心臓と肺の動きを代行します。人工心肺装置を使用することで心臓は動かなくなるため、手術がしやすくなるという利点があります。

しかし1990年代ごろから人工心肺装置を使用せず、心臓を拍動させたままのオフポンプ手術が行われるようになってきました。現在では、日本で行われている冠動脈バイパス手術の半数以上がオフポンプ手術です。また低侵襲心臓手術としてMICSと呼ばれる術式も採用されています。どの術式を選択するかは、患者の状態によって異なります。

心臓弁膜症手術の利点・欠点

心臓弁膜症で行う手術は、病態に応じて弁形成術と弁置換術のいずれかを行います。

弁形成術や弁置換術を行うと、根本的に症状を改善できるため術後経過は良好です。一方で、カテーテル治療に比べて、手術時間や入院期間が長くなります。また、病態や既往歴によっては手術を受けられない人もいます。

近年では、大動脈弁の置換術の新しい方法としてTAVIと呼ばれる経カテーテル大動脈弁留置術と呼ばれる方法での手術件数も増えています。

心臓弁膜症手術の方法

弁形成術は、患者自身の弁や弁の周りの形を整えて、弁の機能を回復させる手術です。手術には全身麻酔と人工心肺装置を使用します。人工弁を使用しないため、弁そのものの耐久性に優れており、永久的に抗凝固剤を飲み続ける必要がありません。

適応は閉鎖不全症で、僧帽弁・大動脈弁の閉鎖不全症に対して行われています。近年では、大動脈弁の構造を生かして弁形成するのはかなりの技術が必要となるため、多くの施設では弁置換を行う場合がほとんどです。

弁置換術とは、心臓の弁に狭窄や逆流などの異常がある場合に、弁を施術して人工弁に置き換える手術です。大動脈弁疾患では、よく用いられている手術のひとつで、高齢者にも比較的安全性の高い手術として実施されています。弁置換術も全身麻酔下で人工心肺装置を使用した手術です。

人工弁には生体弁と機械弁があります。生体弁はウシやブタの心膜を利用しており抗凝固剤を永久的に使用しないで済む反面、機械弁に比べ劣化が早いのが特徴です。機械弁は特殊なカーボンで作られており、抗凝固薬を生涯にわたり服用しなければなりませんが、耐年数が長く50年以上効果が持続します。

解離手術の利点・欠点

大動脈瘤・大動脈解離手術では「人工血管置換術」と呼ばれる手術を行います。

人工血管置換術の利点は手術により、大動脈瘤を完全に除去できる点です。人工血管は生体内で劣化しにくく、生体適合性も良いのが特徴です。欠点は、開胸手術であるために身体への負担が大きくなる点です。

大動脈瘤・大動脈解離手術の方法 

大動脈瘤・大動脈解離で行うのは、動脈瘤や解離が起きている部分の血管を切除して、人工血管に置き換える「人工血管置換術」です。この手術も一時的に心臓の拍動を止める必要があるため、全身麻酔下で心臓の代わりとなる人工心肺装置を使用します。

人工血管は、「ダクロン」と呼ばれる化学繊維を網目状に織った白いチューブ型をしており、血液が漏れないようなコーティングを施しています。現在使用されている人工血管は数十年以上の耐久性を持つため、術後の劣化による入れ替えの心配はまずありません。しかし感染に対して弱いため、感染リスクが高いとされる歯の治療の際などには注意が必要です。

弓部大動脈に大動脈瘤ができると、腕や頭に分岐する末梢動脈も含めて人工血管に置換する必要があります。手術の難易度は上がり、血管1本1本の置換が必要となるため、手術時間も長くなる傾向にあります。

最近では、人工血管にバネが付いたステントグラフトを使用する「オープンステント法」と呼ばれる術式を用いることで、末梢動脈への吻合が簡略化され、手術時間が短くなりました。これにより、身体への負担は軽減され、手術成績も向上しています。

まとめ

大血管手術とは、心臓に栄養を与える血管や心臓から全身に栄養を送る大きな血管、心臓の部屋を仕切っている弁などが何らかの原因で障害を起こしてしまうときに行う手術の総称です。

対象となる病気はさまざまですが、現在では手術により病気を根本的に改善することが可能です。ただし、合併症や高齢などの理由ですぐに手術が受けられない場合もあります。

大血管手術はいずれも全身麻酔下で人工心肺装置を使用して行うため、体の負担は大きくなります。今回紹介したそれぞれの手術の利点・欠点、手術方法を理解したうえで、医師と相談して手術に臨みましょう。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。