2022.08.23
虚血性心疾患は、主に動脈硬化が原因で心筋に栄養を与える冠動脈が狭くなるために起こる病気です。胸の痛みが主症状で、狭心症と心筋梗塞に分類できます。
胸の痛みは、数分で治まるものから、激しい痛みが20分以上続くものまであり、診断を受けていない場合はすぐに受診が必要です。
この記事では、虚血性心疾患とはどのような病気か、症状や原因、治療法などを解説します。併せて心臓の働きや冠動脈の働きについても解説しています。
虚血性心疾患とは?
虚血性心疾患とは、動脈硬化や血栓などが原因で、心臓を動かしている筋肉に栄養を与える血管(冠動脈といいます)が狭くなるために起こる心臓の病気の総称です。血液の流れが悪くなると、心臓の筋肉に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。
その状態で激しい運動をしたり、強いストレスが加わったりすると、心臓の筋肉が一時的に血液不足になります。すると、胸や背中、腕などに痛みや圧迫感、息苦しさを感じるようになります。
虚血性心疾患を解説する前に、まずは心臓の働きと、原因となる冠動脈についてご説明しましょう。
心臓の働き
心臓は私たちの体で重要な役割を担っている臓器です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしており、1分間に60~80回もの拍動を繰り返しています。1日にすると、10万回以上休むことなく拍動を繰り返しています。
心臓の大きさは200~300gで、4つの部屋と4本の大きな血管で構成されています。4つの部屋はそれぞれ、右上が右心房、右下が右心室、左上が左心房、左下が左心室と呼ばれ、それぞれの部屋には全身または肺へと続く血管がつながっています。
冠動脈の働き
心臓の鼓動を持続させるためには、心臓そのものにも酸素や栄養が必要です。
心臓を動かしているのは「心筋」と呼ばれる心臓壁を構成する筋肉です。この心筋が広がったり縮んだりする動きによって、全身に血液を送っています。
この心筋に酸素や栄養を送っているのが冠動脈です。冠動脈は大動脈の根元から左右一対に広がる血管で、心筋がスムーズに拍動するためにそれぞれ4つの部屋に沿うように分岐しています。
虚血性心疾患の症状
虚血性心疾患に分類されるものには「狭心症」と「心筋梗塞」があります。それぞれの特徴と症状を解説します。
狭心症
狭心症は、動脈硬化などによって、冠動脈が狭くなるために血流の流れが悪くなった状態です。狭心症は、主に歩いているときや階段の上り下りなどの動きをしているときに、胸を圧迫するような痛みの発作が繰り返し起こるのが特徴です。
この症状は数分から15分程度で症状が落ち着くことが多く、発作が起きたときに薬を舌下服用すると治まります。また動悸(どうき)や息切れ、胸の痛み、むくみなどの症状も起こります。
狭心症は、移動中や家事中、仕事中などなんらかの動作中に起こることが多いのです。しかし、狭心症の種類によっては、安静にしているときも冠動脈がけいれんし、狭心症の発作が起こる場合もあります。このタイプを冠攣縮(れんしゅく)性狭心症と呼びます。
心筋梗塞
心筋梗塞は、動脈硬化などが原因となって心臓の血管に血液の固まり(血栓)ができて、血管が詰まる病気です。血管が詰まって、血液が流れなくなると、心筋の細胞が壊れてしまうため、突然死のリスクがあります。
心筋梗塞の特徴的な症状は、胸に激痛を伴う発作が起こります。そのほかにも、呼吸困難や激しい脈の乱れ、冷や汗、顔面蒼白、吐き気などの症状が特徴です。
心筋梗塞の痛みは20分から、数時間にわたります。激しい痛みは胸だけでなく、胃や腕、肩周辺に起こることがあります。このように、病気の部位とはかけ離れた部位に現れる痛みのことを放散痛と呼びます。
狭心症は冠動脈が詰まりかかっている状態ですが、心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まってしまう病気です。心臓の血管が一瞬で詰まると、突然死することもあるため早期発見、早期治療が必要です。
虚血性心疾患の原因
虚血性心疾患の原因は、動脈硬化です。そのほかにも 虚血性心疾患の発症に大きく関わる危険因子を それぞれ 解説します。
動脈硬化
動脈硬化とは、動脈の内側にコレステロールなどが付着することで血管が詰まったり、固くなったりして柔らかさを失った状態4です。
動脈硬化はいくつか種類があります。
動脈硬化のうち、大動脈などの太い動脈に粥腫(じゅくしゅ)ができるものを粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)と呼びます。
粥状動脈硬化は、動脈の内膜に悪玉コレステロールなどが沈着することで、粥状の隆起(プラーク)を作りだします。さらに、そこに血栓ができると血管が詰まるため、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こします。
次に、脳や腎臓の中の細い動脈が硬くなってしまうものを、細動脈硬化と呼びます。細動脈硬化は、加齢や高血圧、長期の糖尿病が原因で起こるのが特徴で、進行すると血管が破裂して脳出血を招く恐れがあります。
危険因子
虚血性心疾患の発症を高める可能性がある危険な要素はいくつかあります。
過度なストレスや攻撃的な性格で、常にストレスがかかっていると、虚血性心疾患を発症する リスクを高めます。そのほかに、加齢や家族歴、性差(男性)も虚血性心疾患の危険因子です。
また、動脈硬化にも危険因子があります。動脈硬化は血管の老化現象のため、歳をとると誰にでも起こり得るものです。しかし、比較的若い人でも、脂質異常症や高血圧、糖尿病、喫煙歴などがあると動脈硬化が促進される ことが分かっています。
虚血性心疾患の治療法
虚血性心疾患の治療は大きく分けて「薬物治療」「カテーテル治療」「バイパス手術」の3つの選択肢があります。それぞれを解説します。
薬物治療
全身状態やほかの臓器により手術が難しい場合や、とても小さな冠動脈が病変の場合は薬物治療で症状を緩和します。外科的な処置は行わないため、手術のリスクを伴いませんが、外科的処置に比べて 再発のリスクは高くなります。ここでは、虚血性心疾患に使われている治療薬を紹介します。
虚血性心疾患の治療薬①「ニトログリセリン」
狭心症の代表的な治療薬として使用されているのがニトログリセリンです。主な使い方は舌下投与で、症状が現れたときに使用すれば、血圧を下げる作用で 症状を抑えることができます。
舌下投与のニトログリセリンは、胸痛の発作が現れたときすぐに1錠を舌下に入れて溶かします。狭心症の発作であれば、1~2分程度で効果が現れはじめます。
5分以上経過しても症状が治まらない場合は、もう1錠同じように使用します。ただし、使用に関しては医師の指示に従い服用してください。また、2錠使用しても症状が改善しない場合は、すぐに医師に相談しましょう。
ニトログリセリンは、血圧を下げる作用がありますが、多用すると気分が悪くなったり、動悸やめまいなどの症状が現れたりします。このような症状があれば、同じく医師に相談しましょう。
ニトログリセリンを使っても症状が改善しない場合は、心筋梗塞やほかの病気による痛みかもしれません。また、狭心症の発作が今までよりも強くなったり、頻度が多くなったりしたとき、安静時にも症状が現れたりするときはすぐに病院を受診しましょう。
虚血性心疾患の治療薬②「β遮断薬」
β遮断薬は、心拍数や心筋収縮を抑制することで、心筋の酸素消費量を減少させる治療薬です。虚血性心疾患では、狭心症の治療に使用されており、特に労作性狭心症の第一選択薬となっています。
また、慢性心筋梗塞にも使用されており、β遮断薬を使用することで、不整脈を抑制して予後を改善する効果があります。ただし、日本人に多い冠攣縮性狭心症を悪化させる可能性があるため、使用には夜間や早朝の安静時に胸痛があるかどうかの確認が必要です。
虚血性心疾患の治療薬③「カルシウム拮抗薬」
カルシウム拮抗薬は、血管を拡げることで血圧を抑える治療薬です。主に狭心症の発作を抑えるために使用されています。
カルシウムは、主に骨や歯に存在している物質ですが、それ以外の筋肉にも微量ですが存在し、筋肉を縮めるのに役立っています。カルシウム拮抗薬の作用は、血管の筋肉に存在するカルシウムの働きを抑えることで、血管を拡げて血圧を下げる働きをしています。
特に冠動脈に作用すると、心臓への血液の量が増加するため 狭心症の発作を予防します。また、冠攣縮性狭心症にも用いられます。
虚血性心疾患の治療薬④「アスピリン」
アスピリンは、血栓をできにくくする薬です。狭心症や心筋梗塞、脳血栓などの予防に用いられています。アスピリンは抗血小板薬に分類され、出血を止める作用を持つ血小板の作用を抑えて血栓をできにくくします。
もともとは熱を下げたり、痛みを抑えたりする鎮痛剤として有名な薬ですが、低用量(100㎎)を毎日飲むことで血栓ができるのを防ぎます。
その他
そのほかにも、虚血性心疾患の治療にはACE阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬などの薬剤が使用されています。
ACE阻害薬やアンギオテンシンⅡは、心臓の働きが低下したことで増加する過剰なホルモン(アンギオテンシン)の働きを抑えて、心臓の負担を軽くする治療薬です。
心臓の機能が低下すると、アンギオテンシンと呼ばれるホルモンが活発化して心臓の血液量を増やすことで、弱くなった心臓の機能を補おうとします。しかし、縮まった血管へ血液を送るには、さらに強い拍動が必要になり、心臓の負担が大きくなってしまうのです。
そのため、ACE阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬を使用して、アンギオテンシンの働きを抑えることで、血管を拡げ心臓の負担を軽くします。心筋梗塞では、心臓の壊れてしまった部分の機能を補うために、残った正常な心筋が大きくなります。すると心臓の機能を低下させる「リモデリング」が起こります。これらの薬ではリモデリングも防ぐ作用があります。
心臓カテーテル治療
心臓カテーテル治療は、心筋梗塞や狭心症に対して行われる治療法です。
経皮的冠動脈形成術(PCI)と呼ばれる術式で、狭窄あるいは閉塞している冠動脈に対して、カテーテルと呼ばれる細い管を冠動脈に送ります。狭くなっている部分をカテーテルの先についている風船を膨らまして、血管を拡張させていきます。
詰まっている血管が拡がっているのを確認したら、ステントと呼ばれる金属の網目の筒を留置し、狭窄や閉塞を起こしている部分の血流を改善するのが大まかな流れです。
最近ではステントの金属の表面に特殊な薬剤が付着しているものが主流で薬剤溶出ステントといいます。その目的は、冠動脈に留置したあとに、薬剤が徐々に溶け出して再狭窄を防ぐためです。
通常のステントと薬剤溶解ステントのどちらを使うかは、患者さんの病態によって異なります。服用する薬が少なくなるメリットなどもありますが、その後の生活にも関わる部分のため、医師と相談しておくことが大切です。
冠動脈バイパス手術
冠動脈バイパス手術(CABG)は、冠動脈が狭くなったり詰まったりしている場合に、血液を供給する迂回路を作って、冠動脈の血液の流れを確保する手術です。
冠動脈バイパス手術は、胸を開いて行う開胸手術です。冠動脈に閉塞が起きている箇所が複数ある場合や、冠動脈の根本など主要な部位に狭窄が起きている場合に、冠動脈バイパス手術を行います。
手術は全身麻酔で、手術時間は4~6時間程度です。迂回路として使用する動脈や静脈は前腕や脚、胃、肋骨にある自分の血管です。体の別の部分から取り出した血管を、冠動脈で狭窄が起きている部分をまたぐように縫い合わせていきます。
冠動脈バイパス手術は、心臓を一時的に止めて行う方法と、心臓を動かした状態で行う方法があります。心臓を一時的に止める場合には、人工心肺装置と呼ばれる機器を使用します。人工心肺装置は、一時的に心臓の代わりをする機器で、心臓を止めていても全身に血流を送ることができるため体の機能を維持したまま手術ができます。
どちらの方法を使用するかは、患者さんの病態や年齢、健康状態と冠動脈の状態などを総合的に判断して決定します。
まとめ
虚血性心疾患には狭心症と心筋梗塞があり、どちらも動脈硬化などが原因で起こります。治療方法は薬物治療、心臓カテーテル治療、冠動脈バイパス術があり、患者さんの病態や年齢などを考慮して決定します。
虚血性心疾患は、数分で治まる胸痛もあれば、20分以上胸が激しく痛むものもあります。胸に強い痛みを感じたら迷わず医療機関を受診しましょう。
当院では大動脈弁形成術のエキスパートである國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。 「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。