僧帽弁形成術なら宇都宮記念病院

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僧帽弁形成術

僧帽弁形成術とは?

僧帽弁形成術

私たちが生きていくためには新鮮な酸素が必要不可欠です。心臓はその新鮮な酸素をたっぷり取り込んだ血液(動脈血といいます)を全身へ送り届けるポンプの働きをしています。

まず心臓を出た血液は肺を通り、新鮮な酸素を血液に取り込み心臓へ戻ってきます。そして心臓から全身をめぐり、酸素が消費された状態となって(静脈血といいます)再度心臓へと戻ってきます。

心臓は右心房、右心室、左心房、左心室と呼ばれる4つの部屋に分かれており、静脈血は右心房へとまず帰ってきます。4つの部屋は決まった正しいリズムで収縮し、全身に絶えず血液を送り出すポンプとしての役割を担っています。全身の血液の流れは一方通行でなくてはならないため、これら4つの部屋はそれぞれの部屋に血液が逆流しないように、「弁」という扉を持っています。この「弁」が血液の流れにそって開け閉めされることで正しい方向へ血液は流れていきますが、これらの弁が何らかの原因で開きにくい、またはちゃんと閉じられなくなる場合があります。この機能が損なわれた状態を弁膜症と呼びます。

その中でも僧帽弁は、肺で新鮮な酸素を取り込んだ血液を最初に心臓で出迎える左心房と、全身へ血液を送り出す左心室との間にある弁で、とても大事な働きをしています。この僧帽弁が何らかの理由でうまく開かない状態となった僧帽弁狭窄症や、うまく閉じ切らない状態となった僧帽弁閉鎖不全症となってしまった場合には左心房から左心室へ動脈血が正しく流れなくなり、ひいては全身へ新鮮な酸素を送り届けられなくなります。このような状態になってしまったときに、僧帽弁を修復する手術が必要となります。

僧帽弁に対して行う手術は、僧帽弁そのものを交換してしまう僧帽弁置換術と、もともとの僧帽弁を可能な限り残したまま形と機能を回復させる僧帽弁形成術の2種類があります。僧帽弁形成術は、主に僧帽弁閉鎖不全症に対して行われる手術です。

僧帽弁形成術の歴史は世界的に見ても40年程度とまだ浅いのですが、弁置換で起こりうる合併症を回避できるなど利点も多いため、2017年時点では全国で行われる僧帽弁の手術の約60%が僧帽弁置換術となるほど広まってきています※1

※1 岡田行功「僧帽弁・大動脈弁形成術の進歩 心臓 49巻6号 Page621-624 2017」より引用

僧帽弁形成術が必要となる病気

僧帽弁形成術が必要となる病気は、僧帽弁閉鎖不全症です。僧帽弁は弁輪と呼ばれる僧帽弁を形作る台座と、弁輪に付着する前尖、後尖と呼ばれる2枚の弁そしてそれを支える腱索と乳頭筋によって形作られています。通常はこの弁輪、2枚の弁、そして腱索と乳頭筋の働きによって逆流を防止していますが、これらの異常により弁がうまく閉じ切らないようになってしまうことにより、僧帽弁閉鎖不全症が起こります。これらのような状態を引き起こしてしまう原因は様々ですが、大きく分けて以下のように分類されます。

弁尖の異常

日本で一番多い僧帽弁閉鎖不全症の原因は、弁尖の細胞が変化してしまう原因不明の粘液変性という状態となってしまうことです。若年者で発症した僧帽弁閉鎖不全症の大部分は粘液変性が原因と言われています。

また、過去にリウマチ熱にかかったことがある場合や、感染性心内膜炎を発症してしまった場合は弁そのものが破壊されてしまうことで、僧帽弁閉鎖不全症を発症してしまいます。

弁輪の異常

色々な心臓の病気に伴って左心室や左心房が拡大してしまうと、弁輪そのものが引き延ばされ閉鎖不全となってしまいます。また、マルファン症候群とよばれる全身の線維組織が弱くなってしまう先天性の病気では、心臓から血液を押し出す圧力により弁輪自体が引き延ばされ、弁そのものは問題なくとも隙間が空いて僧帽弁逆流症を発症してしまいます。

腱索や乳頭筋の異常

感染性心内膜炎やリウマチ熱などの後遺症で腱索そのものが断裂することがあります。また、心筋梗塞などの虚血性心疾患に罹患することで、乳頭筋が断裂してしまう事でも閉鎖不全を引き起こすことがあります。

僧帽弁形成術の適応

僧帽弁閉鎖不全症の治療では、心臓への負担を軽減することが基本的な治療法です。そのため塩分制限をはじめとする血圧を下げる内科的治療が中心となります。

しかし内科的治療はあくまでも病気の進行を遅らせる事しかできず、一度起こってしまった弁の機能不全を治すことはできません。そのため、ある程度の症状が出始めてしまった場合は当然ですが、無症状でも検査で心臓が大きくなっている場合や心臓の機能が低下していると判明した場合も手術が勧められます。

僧帽弁形成術の適応は以下のような症状が出ている時になります。

長期間に渡り僧帽弁閉鎖不全症を患っており、無症状でも心臓が拡大したり心臓の機能が低下している

自覚症状はなくとも、心臓超音波検査(心エコー)などで心臓が大きくなっていたり、心臓の機能が低下していると認められることがあります。症状が出始める前に外科手術を受けることが勧められます。

すでに心不全の症状があらわれている

僧帽弁閉鎖不全症が進行すると左心室に大きな負担がかかり、狭心症や心不全を起こしてしまいます。胸の痛み、運動時の息切れや、動悸、睡眠時に横になって寝ることができないなどの症状がすでに現れている場合は、外科的治療を考えたほうが良いでしょう。心不全の重症度は、以下のようなNYHA分類(New York Heart Association functional classification)というものをよく使用します※2

NYHAⅠ度

心疾患はあるが、普通の身体活動では症状が出ない

NYHAⅡ度

普通の身体活動(階段を上る)で症状が出る

NYHAⅢ度

普通以下の身体活動(平地を歩く)で症状が出る

NYHAⅣ度

安静にしていても心不全症状や狭心症を起こす

※2 NYHA分類:ニューヨーク心臓協会が作成した心機能の分類表です。心不全の重症度を自覚症状から導き出します。

また、僧帽弁閉鎖不全症には高頻度に心房細動とよばれる不整脈を合併します。心房細動になっていると左心房の中で血の塊(血栓)が作られ、それが全身の臓器へと送り出されることで血管を詰まらせてしまいます。例えば、血栓が脳の血管を詰まらせてしまうと脳梗塞が引き起こされてしまいます。ですので、僧帽弁形成術を行う際には不整脈の治療も同時に行う場合が良くあります。

僧帽弁形成術の方法

僧帽弁形成術の治療は、「開心術」と呼ばれる心臓を直接触りながら行う方法、小さい傷で手術を行う低侵襲心臓手術(Minimally Invasive cardiac Surgery:MICSミックスと呼びます)、カテーテルを用いて僧帽弁を形成する方法の3種類あります。それに加え、心房細動の治療としてMAZE(メイズ)手術を同時に行うことがあります。

開心術で行われる僧帽弁形成術

開心術はその名の通り、心臓を直接開けて損傷した弁を修復する手術です。開心術を行う場合には、全身麻酔で眠った後に胸の正面にある胸骨という骨を切り開き、心臓を直接触りながら手術を行います。僧帽弁形成術の場合には心臓の動きを止めなければならないため、人工心肺という装置を用いて一時的に心臓の代わりに全身の血液を循環させます。

僧帽弁形成術は、自分自身の僧帽弁を縫ったりつなぎ合わせたりして損傷した弁を修復する手術です。腱索そのものが断裂あるいは伸びきった場合には人工の糸でそれを代用して修復します。自分自身の僧帽弁が使用できない場合には、心臓を包む心膜と呼ばれる組織や、動物の心臓を覆う膜でできた人工心膜を用いた僧帽弁形成術を行う場合があります。

MICSで行われる僧帽弁形成術

最近では体への負担を軽減させる方法として、胸を切る大きさを小さくしたMICSによる心臓手術を行う施設も徐々に増えてきています。通常の開心術では胸骨を切開するため、術後の合併症など体への大きな負担が問題でした。このMICSでは肋骨の間に小さな傷をつけ、そこから特殊な器具を用いて内視鏡の補助下に心臓の手術を行います。近年、手術支援ロボットを用いた手術が多くなされていますが、心臓の手術にもこの手術支援ロボットが用いられるようになりました。2018年に医療保険で賄われるようになったことをきっかけに、徐々に広まってきています。当院でも施行することができます。

カテーテルを用いた僧帽弁形成術

カテーテルを用いた僧帽弁形成術は経皮的僧帽弁形成術(Mitral Clip)と呼ばれます。この方法は開心術やMICSと異なり、心臓を切開せずに僧帽弁を修復します。言い方を変えると、全身麻酔を必要とする外科的僧帽弁形成術に耐えられない方に行う手術とも言えます。大腿静脈と呼ばれる血管からカテーテルを僧帽弁へと到達させ、閉じ切らなくなった僧帽弁をクリップで挟み込み、逆流を軽減させることで治療します。

開心術の僧帽弁形成術とは異なり、根本解決を目指すというよりは逆流の軽減を目的とする一時しのぎといった意味合いが強いです。

これらの僧帽弁形成術に加え、心房細動に対してMAZE手術も同時に行うことがあります。このMAZE手術は、不整脈を起こしてしまう異常な電気信号を手術で焼き切る方法です。また、脳梗塞予防のために、血栓ができやすい左心耳という部分を切除することもあります。左心耳を切除しても術後の心臓の機能には全く問題ないばかりか、血液が固まらないようにする抗凝固剤を中止することが可能になるという利点があります。

僧帽弁形成術の利点・欠点

以前は僧帽弁閉鎖不全症に対する手術では僧帽弁そのものをカーボンなどの人工素材の弁(機械弁)あるいはウシやブタの生体組織を用いた弁(生体弁)などに交換する僧帽弁置換術が一般的でした。しかし僧帽弁を機械弁に交換した場合には、抗凝固剤を生涯飲み続けなければなりません。一方、生体弁に交換した場合には、抗凝固剤は不要ですが、とりわけ若い方では劣化が速く進み、手術後10年から20年の間に大部分の方で再度交換が必要になってきます。それに比べて、僧帽弁形成術の手術成績が優れていることや、抗凝固剤の内服を避けられる生活の質を維持できる安全な手術方法であることから、最近では僧帽弁形成術が第一選択と考えられるようになってきています。

まとめ

日本では僧帽弁閉鎖不全症の治療法として僧帽弁形成術が広く認知されており、安全に受けられる手術とされています。もし僧帽弁閉鎖不全症で外科治療を考えなくてはならない時には、まず僧帽弁形成術の適応となるか主治医や専門医とよく相談されることをお薦めします。

当院では大動脈弁形成術のエキスパートであり、僧帽弁形成術にも造詣が深い國原先生を始め、豊富な経験を持つ外科医を始めする心臓外科のスタッフ一同が一丸となって、患者様お一人お一人の立場に最適な治療、手術を行っていきます。

「すべては患者様のために」をスローガンに、患者様のことを第一に考え、思いやりのある温かい医療を提供してまいります。心臓疾患でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修医師

宇都宮記念病院

心臓外科國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。