不整脈とは
不整脈とは、心臓が脈を打つ鼓動が速かったり、またはゆっくりだったり、あるいは不規則に脈打つ状態を指します。
心臓は筋肉でできた臓器で、その筋肉に流れる電気信号によって規則正しく収縮と弛緩を繰り返して全身に血液を送り出しています。
心臓に収縮と弛緩を促す電気信号は、心臓の右心房付近にある洞房節(どうぼうせつ)で規則正しく自然発生します。このことから規則正しい脈拍のことを「洞調律(どうちょうりつ)」と呼びます。
一般的に成人の正常な脈拍数は1分間に60〜100回ほどとされています(安静時)。ただし脈拍数は個人差があるので日頃からåご自分の脈拍数を測定して、その数値を知っておくと良いでしょう。
不整脈には、その脈拍のリズムによって大きく分けて3つの種類があり、原因となる心臓の場所により分類されます。
①頻脈性不整脈
通常よりも脈が速い状態です。1分間に120回以上の脈拍は頻脈と呼ばれ、なんらかの病気が原因と疑われるため精密検査の必要があります。
頻脈性不整脈の種類
- 心房頻拍
- 心房細動(粗動)
- 発作性上室性頻拍
- 心室頻拍
- 心室細動
- WPW症候群
②徐脈性不整脈
通常よりも脈が遅い状態です。1分間に50回以下の脈拍は徐脈と呼ばれ、なんらかの病気が原因と疑われるため精密検査の必要があります。
脈性不整脈の種類
- 洞不全症候群
- 房室ブロック
③期外収縮(きがいしゅうしゅく)
通常の脈に混じって不規則に脈を打ったり、脈が一拍抜けたりする状態です。その多くは治療を必要としない良性の不整脈の場合がほとんどです。
期外収縮の種類
- 心室性期外収縮
- 心房性期外収縮
不整脈の原因
不整脈は、狭心症や心筋梗塞、心不全、虚血性心疾患などが原因で、洞房結節の電気信号に異常が起こることで合併症として発症します。
また、心臓疾患以外の原因として、加齢や体質を始め、飲酒、喫煙、ストレス、過労、睡眠不足などの生活習慣が原因で自律神経が崩れることで起こります。
不整脈の症状
脈拍の感じ方は人それぞれですので、不整脈の自覚症状を感じられる方とそうでない方がいらっしゃいます。少しでも以下のような異常を感じたら、病院を受診して検査をすることをおすすめします。
- 徐脈の状態では、脈拍が一分間に40回以下になると、息切れ、めまい、たちくらみなどの症状が現れます。
- 頻脈の状態では、脈拍が一分間に120回以上になると、動悸や息切れ、胸痛、めまい、失神などの症状が現れます。
- 期外収縮では、症状を感じない場合が多いです。症状を感じるときは、脈がとぶような感じ、あるいは、胸をしめつけるような痛みを感じます。
当院における不整脈の検査と診断
不整脈は心電図によって診断されますが、不整脈自体に治療が必要なものと不要なものがあります。その診断をするために併せて、心臓超音波検査と胸部レントゲン、採血を組み合わせて検査します。
不整脈の現れ方には2つのパターンがあります。普段は正常な脈拍ですが一時的に不整脈が起きる「発作性」。もうひとつは常に不整脈が起きている「持続性」です。
持続性の不整脈は1回の心電図検査で診断ができますが、発作性の不整脈では普段の心電図が正常なため1回の心電図検査では診断がつかないことがあります。
そのため、24時間記録する心電図検査(ホルター心電図)や、運動中の心電図検査(運動負荷心電図検査)や、カテーテルによる検査(心臓電気生理検査)、皮膚の下に心臓モニターを植え込む検査(植え込み型モニタ)などの検査が必要になる場合があります。
当院における不整脈の治療
当院の不整脈治療は、下記の内容となります。
①内服薬(抗不整脈薬)による不整脈のコントロール
軽症の場合は抗不整脈薬の服用と併せて生活習慣の見直しを行うことで経過観察をします。
②カテーテルアブレーション
重度の頻脈性不整脈にはカテーテル的治療法で根治的治療を行います。
カテーテルアブレーションとは、血管の中から心臓にカテーテル(管)を入れて、心臓の心房内にある不整脈を起こす箇所を高周波で焼灼、あるいはバルーンで冷凍焼灼して治療する方法です。
治療の際の切開箇所も小さいので体への負担が小さく、なにより不整脈の根治を期待できる治療法です。
③ペースメーカーの植え込み治療
重度の徐脈性不整脈でめまい、ふらつき、失神発作等を引き起こす場合には、ペースメーカーの植え込み治療を行います。
手術では、鎖骨下部分の皮下にペースメーカー本体を植え込み、静脈を通じてペースメーカーの本体から伸びるリード線を心臓に挿入して固定します。これにより、徐脈を検出したペースメーカーは心臓に電気刺激を送ることで正常な脈拍に戻します。
また、リードがなく10円玉くらの大きさに小型化されたリードレスペースメーカ植え込み手術も行っております。
カテーテルアブレーションについて
ここからはカテーテルアブレーションが必要になる疾患をはじめ、その方法、各心臓疾患における適応について詳しく解説します。
カテーテルアブレーションが必要となる疾患
カテーテルアブレーションが必要となる代表的な疾患は「心房細動」「発作性上室性頻拍」「心室性期外収縮」「心室頻拍」の4つです。ここでは、この4つの疾患の特徴や症状、原因について詳しく解説します。
心房細動
心房細動は、心臓を大きく2つに分けられる部屋のうちのひとつ、「心房」が小刻みに震えて痙攣してうまく働かなくなっている状態です。主に心臓の左心房にある肺静脈付近から、電気信号が不規則に生じることで起こります。心房全体が小刻みに震えて痙攣した状態になると、心拍数が1分間に100~150回以上の頻拍になることがあります。
心房細動は段階的に進行していく傾向があり、初期段階では特に自覚症状はなく、痙攣は短期間で消失します。しかし病状が進行するにつれて、めまいや動悸、胸の不快感、脱力感、息苦しさなどの症状が現れます。発作の頻度が増えると、次第に慢性化するのが特徴です。
心房細動は加齢に伴って起こりやすくなりますが、それ以外にも、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病などの生活習慣病を持つ人にも起こりやすいことが分かっています。そのほかにも、心筋梗塞や弁膜症、慢性肺疾患、甲状腺機能亢進症などでも心房細胞を併発するリスクが高くなります。
発作性上室性頻拍
発作性上室性頻拍とは、何らかの原因で突然脈拍が速くなって頻拍が続いたあとに止まる不整脈の総称です。このような突然起こる不整脈を「リエントリー」と呼び、電気の流れによって起こります。
発作性上室性頻拍の原因は大きく、房室回帰性頻拍、房室結節リエントリー性頻拍、心房頻拍の3つに分けられます。これらをWPW症候群とも呼びます。いずれも、不整脈の回路が心室より心房側で発生しているのが特徴です。
頻脈が起こることで、動悸や血圧低下、ふらつき、めまいなどの症状が現れます。頻拍が起こっていないときは正常で前兆はありません。症状や発作を自覚しやすいのも発作性上室性頻拍の特徴です。
心室性期外収縮
心室性期外収縮とは、心室からの異常な興奮により生じる不整脈です。脈が抜ける、飛ぶように感じるのが特徴ですが、無症状の人もいます。
血圧計で脈拍数にエラーが出る場合や、いつもに比べて脈拍数が低下している場合は心室性の期外収縮が発症している可能性があるでしょう。心室性期外収縮が多発していると心筋症になり、心臓の機能が低下して息切れやむくみなどの心不全の症状が現れることもあります。また、症状が連発すると、心室頻拍や心室細動を引き起こすことがあり、命に関わることもある病気です。
心室性期外収縮は、心室に不整脈が起こる原因があるために起こります。この原因を作ったり活性化させたりする要因として、高血圧や心臓病、肺疾患、飲酒、喫煙、不眠、カフェインなどがあります。
心室頻拍
心室頻拍とは、何らかの原因で心室が通常よりも速いペースで規則的な興奮をする不整脈です。心房からの電気信号とは関係なく起こり、心拍数や発作が起こる時間に応じて危険性が高まります。
心室頻拍は狭心症や心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症、心サルコイドーシスなどの心臓の病気が原因で起こる器質性心室頻拍と、心臓の病気以外の原因で起こる特発性心室頻拍があります。
心室頻拍は心拍数が少ない、ごく短時間で治まる場合は無症状のことが多いでしょう。しかし、発作の持続時間が長いと動悸や息切れ、めまい、ふらつき、失神などの症状が起こります。心室の収縮がうまくいかなくなることで、全身に必要な血液を十分に送ることができなくなるため、意識消失や突然死を起こすこともある非常に危険な不整脈です。
カテーテルアブレーションの方法
カテーテルアブレーションの方法は、動脈から心臓の中に電極のついたカテーテルを入れて、その先端から高周波を流すことで心臓の筋肉の一部を焼灼して不整脈の源を取り払います。
アプローチするのは、足の付け根やひじの動脈で局所麻酔をして、そこからカテーテルを入れます。高周波を流す際には時折痛みがありますが、強い痛みではありません。不整脈の発生源を治療できれば、不整脈は根本的に治ります。心房細動の場合、70~80%で症状が改善します。
入院期間は2~4泊程度で、手術時間は1~2時間程度です。難易度の高い心房細動や心室頻拍の場合は、3~4時間かかることもあるでしょう。
カテーテルアブレーションの適応
カテーテルアブレーションは不整脈の種類によっても適応が異なります。多くの場合は、年齢や病態に応じて決定するのが一般的で、高齢の場合は内服治療を続けながら不整脈の症状を抑え付き合っていくこともあります。ここではそれぞれの適応を解説しましょう。
心房細動に対する適応
心房細動のカテーテルアブレーションを行うにあたり、実施時の年齢も考慮します。20~40歳代へのアブレーションは治療成績が良く、積極的に行われています。一方で、70~80歳代の場合、心房細動を根治するよりも内服を続けながら病気とうまく付き合っていくことも選択肢のひとつです。
また、冠動脈疾患や弁膜症が原因で心房細動が起きている場合には、根本の手術の際にアブレーション治療を行うこともあります。
発作性上室性頻拍に対する適応
発作性上室性頻拍も比較的若い人への適応が手術経過は良好です。手術のためには、心臓電気生理検査を行い、心臓内にカテーテルを挿入して不整脈が起こっている場所を特定します。
この検査により、不整脈が起きている場所が特定できればそのままアブレーションを行い焼灼します。不整脈を誘発しても発作が起こらない場合は、原因部分を取り除けたと判断します。
心室性期外収縮に対する適応
心室性期外収縮は、同じ部位から不整脈が起こる場合は、あまり心配する必要はありません。しかし2ヵ所以上、または頻繁に発生する場合は、突然死のリスクがある心室頻拍や心室細動を引き起こす可能性があるため、治療が必要な場合があります。
また、内服治療での抗不整脈薬を服用してもあまり効果が見られない場合は、高周波によるカテーテルアブレーションが適応になります。完全に焼灼することで、不整脈の発生を断つことができるでしょう。
心室頻拍に対する適応
器質性心室頻拍の場合、心筋梗塞や心筋症などの心臓の病気により障害を受けた心筋の周囲に興奮刺激の異常旋回路が形成され、心室を頻回に拍動させてしまうことで起こります。そのため、治療の難易度は高いためカテーテルアブレーションではなく、ICD(植込み型除細動器)の植込みを行うこともあります。
特発性心室頻拍は、心室内の異常興奮によるものが多いため、カテーテルアブレーション治療で興奮部分を焼灼するのが一般的です。
不整脈で行う検査
不整脈が起きているときは、以下のような検査を行います。
- 心電図
- 24時間ホルター心電図
- 血液検査
- 胸部レントゲン検査
- 心臓超音波検査
- 電気生理学的検査など
特に生理学的検査は確定診断に有効で、足の付け根などから電極のついたカテーテルを心臓に挿入し、電気の通り道を調べる検査です。この検査によって、何が原因で不整脈が起きているかを診断することができ、そのままカテーテルアブレーション治療を行うことができます。
心電図やホルター心電図で不整脈の疑いがあり、カテーテルアブレーションの適応疾患であれば、この検査を行うことが多いでしょう。
カテーテルアブレーションの利点・欠点
カテーテルアブレーションは「心房細動」「発作性上室性頻拍」「心室性期外収縮」「心室頻拍」などの不整脈の根治を目指す治療法です。
開胸手術などと比べて、切開する範囲は小さく出血も少ないため体の負担が少ないのが利点です。また、それぞれの患者の病態や状況に合わせた治療計画に基づき実施されることで、不整脈が原因で起こる動悸や息切れなどの症状が緩和もしくは消失します。
その結果として、生活の質(QOL)が改善されれば内服治療は不要になる場合もあります。ただし患者さんによっては、複数回カテーテルアブレーションを行う必要があります。
また、すべての手術にリスクがあるように、カテーテルアブレーションにも少なからず合併症のリスクがあります。代表的なリスクには脳卒中や心タンポナーデ、肺静脈狭窄、横隔神経麻痺、鼠径部の血管損傷です。また、カテーテルによる刺激や穿刺による刺激感、感染症、出血、心嚢液貯留が発生することもあります。
ICD(埋め込み型除細動器)であれば一度の手術で不整脈を改善することができますが、前述の通りカテーテルアブレーションでは、複数にわたり治療を必要とすることもあります。こうした点は、カテーテルアブレーションの欠点と言えるでしょう。