胸部大動脈瘤とは
胸部大動脈瘤とは、心臓から全身に血液をおくる最も太い血管「大動脈」の横隔膜より上の部分が、なんらかの原因により拡張が生じた状態のことです。
胸部大動脈の正常な太さ(直径)は約3cmですが、大動脈の壁の一部が局所的に拡張した場合や直径が正常時の太さの1.5倍(4.5cm)を超えて拡張すると胸部大動脈瘤と呼びます。
血管の拡張には自覚症状がない場合がほとんどで、放っておくと将来的に大動脈瘤が破裂して命を落とすことが多い重大な疾患です。
胸部大動脈瘤の原因
大動脈瘤ができる原因は「動脈硬化」です。
本来、大動脈は血圧に耐えるために血管の壁が内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。しかし動脈硬化になると血管の壁がもろくなってしまい、血圧に耐えられなくなって血管自体、またはその一部が突出して拡張します。
動脈硬化の原因は、加齢によって引き起こされやすくなりますが、高血糖・高血圧・高脂血症などによる生活習慣病も原因となります。
大動脈に起きる動脈硬化には2種類あります。
① アテローム硬化
動脈の中に粥状物質がたまってアテローム(粥状硬化巣)ができることで、動脈の内腔が狭くなり正常な血流を滞らせます。
② 中膜硬化
動脈の中膜にカルシウムがたまることで、血管が硬くもろくなります。ときには血管壁が破れてしまう場合があります。
その他の原因としては、外傷となる大動脈炎症や先天性の遺伝子疾患である「マルファン症候群」があります。マルファン症候群は遺伝子疾患により、大動脈の中膜を正常に形成できなくなることで大動脈の壁がもろくなり、そこから瘤や解離が起きます。詳しくは【マルファン症候群】をご覧ください。
また、大動脈瘤になる方は喫煙歴のある方が多いです。喫煙は大動脈瘤の発症の大きなリスク因子ひとつです。
胸部大動脈瘤の症状
胸部大動脈瘤は、破裂すれば命を落とす危険性のある重篤な疾患にもかかわらず、その自覚症状がほとんどないことが問題となります。
その発見は健康診断のレントゲン検査やエコー検査で偶然に見つかることが多く、破裂するまで気づかれないことが非常に多いのです。
まれに、胸大動脈瘤が拡張することで周囲の組織が圧迫されて自覚症状が出る場合があります。具体的には、胸部大動脈瘤に声帯の神経が圧迫されることで声がかすれたり食事の際にむせたりすることがあります。
また、食道が圧迫されることで飲み込みにくくなったり、胸部や背部に痛みを感じる場合があります。これらの症状が出たときは、胸部大動脈瘤が急速に拡張している可能性があるため、すぐに受診してください。
当院における胸部大動脈瘤の検査と診断
当院では、胸部の正面と側面でX線検査や超音波検査を行い、胸部大動脈瘤の有無を確認します。これらの検査で胸部大動脈瘤が確認された場合は、その大きさや瘤が拡張する度合いを正確に知るためにCT検査を行います。
CTとはComputed Tomography「コンピューター断層撮影法」の略です。X線を用いて、からだの周囲を全方位360度から撮影することで、胸部大動脈瘤の詳細を確認することができます。造影剤を用いれば血管の状態も良くわかりますが、時に造影剤にアレルギーがある方が居ますので注意が必要です。
腎機能障害や造影剤アレルギーがあり、CT検査で造影剤を使えない方にはMRI検査を行います。MRIとはMagnetic Resonance Imagingの略称で強い磁石と電波を用いて体内の状態を画像にする検査です。妊婦さんや若年者など被曝量を抑えたい方にも適しています。
当院における胸部大動脈瘤の治療
当院では胸部大動脈瘤の治療法は、「人工血管置換術」と「ステントグラフト内挿術」の2種類があります。
① 人工血管置換術
大動脈瘤ができている部分を人工血管に置き換える手術です。大動脈の血流を一時的に止めるため、人工心肺装置を用いて心臓の動きを止める、あるいは体温を下げて全身の血液循環を停止させる必要があります。
② ステントグラフト内挿術
ステントグラフトとは、人工血管に金網を縫い合わせたものです。このステントグラフトをカテーテル(医療用の細い管)の中に納めて、太ももの付け根の動脈から入れて胸部動脈瘤の中まで通し、その中でステントグラフトを拡げて血管を補強して動脈瘤に血液が流れないようにします。