脳動脈瘤 ( 未破裂 )
脳ドック等で偶然見つかった小さな動脈瘤から、圧迫による神経症状を呈する大きい動脈瘤、血管内治療後、開頭クリッピング後の再発動脈瘤など、様々な動脈瘤があります。単なるクリッピングでは対処できないものもあり、バイパス手術を行い、最善の治療を心がけています。無血操作を心がけ、穿通枝(数十ミクロンー数百ミクロンの太さ)や脳表への小血管、細かい静脈など、すべての血管の温存を心がけた、丁寧な手術を行っています。この為、出血量が少なく輸血を行う事は通常ありません。元の生活に早期にもどれるよう、無剃毛で手術を行っています。
増大しつつある脳底動脈-上小脳動脈分岐部の血栓化動脈瘤の症例
高位の動脈瘤で、開頭手術も血管内治療も困難との理由から、他院で経過を見られていた方の画像です。脳幹に動脈瘤の圧排による浮腫を認め、ふらつきがありましたが、術後消失し自宅退院されています。
増大傾向の未破裂前交通動脈瘤の症例
前交通動脈瘤は破裂しやすい為、小型でも積極的に治療を行っています。
根治させる事が大事です。この症例では上向きの動脈瘤にて前頭開頭により大脳半球間裂より動脈瘤にアプローチする必要があります。前頭洞の処置を行い術野を拡大し嗅覚を温存した手術です。
A3-A3bypassを行い治療した大型前交通動脈瘤
脳梗塞で入院された際に見つかった13mmの大型前交通動脈瘤の方です。
動脈瘤から前大脳動脈が分岐している形状で、通常のネッククリッピングが困難と判断し、A3-A3bypassを行い動脈瘤のclippingを行った症例です。あらかじめbypassを行うことで、安全に治療を行うことができ、合併症なく自宅退院されています。
増大傾向のある椎骨動脈解離性動脈瘤の症例
頭痛で発症された、椎骨動脈解離の症例です。
力を入れたり、血圧の上がる動作を行う度に頭痛を自覚され、破裂を心配されていた方です。
動脈瘤から後下小脳動脈が分岐しているため、他院で血管内手術を断られ受診されました。
後頭動脈を用い後下小脳動脈にバイパスし、椎骨動脈を遮断する事で破裂の危険性を減じる事ができました。合併症無く自宅退院されています。
脳ドックで見つかった後大脳動脈末梢の動脈瘤
脳ドックで偶然見つかった後大脳動脈末梢の動脈瘤の方です。動脈瘤自体から血管が分岐している形状であったため、後頭動脈を鳥距動脈と吻合し、動脈瘤の治療を行った症例です。
一部に視野障害が出ましたが、その他合併症なく自宅退院されています。
めまいで偶然見つかった前交通動脈瘤の症例
めまいで救急搬送され、検査の結果偶然見つかった前交通動脈瘤の患者さんです。
動脈瘤の形状から、血管内治療の良い適応と判断し、コイル塞栓術を施行しました。合併症なく早期に自宅退院されています。
内頚動脈-後交通動脈分岐部の大型脳動脈瘤に対し、suction & decompression法を行い治療を行った症例
頭痛で発症した右内頚動脈にできた16mmの大型脳動脈瘤の患者さんです。瘤の裏側に後交通動脈や、後交通動脈から分岐する数十ミクロンの穿通枝が張り付いており、瘤にクリップをかける前に剥離をする必要があります。あらかじめ頭皮下を走行する浅側頭動脈を中大脳動脈にバイパスし、頸部内頚動脈、眼動脈、瘤より遠位部の内頚動脈、後交通動脈にclipをかけ瘤に入り込む血流を遮断した後、頸部内頚動脈に穿刺し血液を吸引することで、瘤をしぼませる事ができます。その間に裏側の血管を剥離し、安全に動脈瘤頸部にクリッピングを行っています。虚血性合併症を起こす事なく2週間で自宅退院されています。
代表症例 50代女性
wideneckな大型内頸動脈瘤 C3portion
海綿静脈洞内に入り込む大型の内頸動脈瘤の患者さんです。開頭手術は難しいため、最近では血管内治療が行われることが多い症例です。血管内治療では、眼動脈の閉塞が起きたり、塞栓症を合併することがあるため、当院では開頭手術を優先して行っております。手術後に運転ができなくなったり、復職が難しくならないようにするためです。
硬膜外から前床突起を削除し、硬膜輪を開け瘤の近位部であるC4portionを確認、頸部で上甲状腺動脈に細い管を留置し、総頸動脈、外頸動脈を遮断し、動脈瘤の心臓より遠位部も遮断して閉鎖回路にした後に、上甲状腺動脈に留置した細い管から吸引することで動脈瘤は虚脱し、瘤の裏側まで観察することが可能となります(suction&decompression法)。血管形成的にmultiple clippingを行い、合併症なしで退院されています。
- A:海綿静脈洞内から始まるwide neckな大型内頸動脈瘤です。眼動脈(白矢印)が近傍に認められます。
- B:術後CTAです。瘤は消失し、眼動脈も温存されています。
- C:術後のMRI拡散強調画像ですが、小さな塞栓症は一切認めません。
代表症例 50代男性
多発脳動脈瘤 (前交通動脈瘤,中大脳動脈瘤)
脳ドックで見つかった7mmの上むきの前交通動脈瘤と4mmの中大脳動脈瘤の方です。通常は中大脳動脈瘤がある左側からのアプローチを行うのですが、前交通動脈瘤が上むきのため側方からのアプローチでは脳の一部を吸引したり、瘤の裏側が確認しにくいため、穿通枝梗塞を起こす可能性があります。中大脳動脈瘤が前向きであることから、当科でははじめに大脳半球間裂からアプローチし前交通動脈瘤を完全に露出し、裏側の血管も剥離した後にclipping後を行い、次に前頭葉の底面から左側のsylvius裂を解放し、中大脳動脈瘤の全貌を確認し、closure lineに沿って(理想的なclipの角度で)clippingを行っています。一度の手術で嗅覚障害、高次脳機能障害、塞栓などの合併症なく根治させることができました。
代表症例 60代女性
ドックで見つかった8mmの脳底動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)
脳動脈瘤の患者様です。場所は脳底動脈分岐瘤ですが、分岐部が頭蓋底の低い位置にあり、脳幹や視床に大事な穿通枝を多数分岐している部位にあります。大きさも8mmと大きく手術がかなり難しい症例でした。血管内治療も検討しましたが、不完全な治療になることが想定され、開頭クリッピング術を行っています。動脈瘤周囲の穿通枝を剥離しやすい側からapproachし、動眼神経管を解放し動眼神経を移動する事で術野を拡大し、脳幹側の穿通枝も全て剥離後にclippingを行っています。術後、CTAで動脈瘤は消失しており一時的に動眼神経麻痺を認めましたが、脳梗塞など合併する事なく、早期に自宅退院され復職されています。
- A:術前CATでwideneckな脳底動脈分岐部の未破裂脳動脈瘤を認めます。
- B:術前のCTAですが、後床突起(赤矢印)より下位に瘤のネックがあり、難しい手術になる事が想定されます。
- C:術後CTAですが、動脈瘤は描出されません。
代表症例 70代女性
巨大脳動脈瘤(内頚通動脈瘤)
外転神経麻痺で発症した30mmの内頚動脈の巨大脳動脈瘤の方です。巨大脳動脈瘤で外転神経が圧迫され複視(ものが二重に見える)を呈し、大学病院を受診されました。特別な治療が必要になるために当院にこ紹介いただきました。動脈瘤の主座は海綿静脈洞内にあるため、前腕から撓骨動脈を18cmほど採取し、頸部外頚動脈と中大脳動脈にハイフローバイパス(EC-RA-M2 bypass)を作成しした後、頸部で内頚動脈の動脈瘤近位部を遮断して動脈瘤の血栓化を促し、それによる縮小を企図した手術を行いました。術後動脈瘤は縮小し、複視は消失されています。当施設では浅側頭動脈と中大脳動脈の末梢部にあらかじめbypassを作成し、そこから中大脳動脈の血圧を測定する事で、ハイフローバイパスが十分な血流を供給しているかどうか判断しているため閉塞は起きていません。バイパスに必要な遮断時間は20針の縫合で20分前後の精度で行っております。
脳底動脈先端部の未破裂動脈瘤
脳底動脈先端部の未破裂動脈瘤の方です。他施設にて血管内治療(コイル塞栓術)を行うも、術中に虚血症状が出現し、当院に開頭手術のご依頼をいただきました。瘤径は5mmと小型でしたが、大変高位で第三脳室底に食い込んでおり躊躇する症例です。手術を引受けてくれる施設がなく他県よりお見えになられ、困られているため治療をお受け致しました。頬骨弓を外して開頭し、側頭葉の静脈を剥離し、動眼神経、内頸動脈を動かせる操作を加え、瘤の頸部がなんとか確認できる術野を作り動脈瘤を引き下げるように吸引管でcontrolしつつ、neck clippingを終えています。一過性の動眼神経麻痺のみで後遺症なく自宅退院されています。
- a, b : 高位に動脈瘤を認めます。
- a,b,c : 赤矢印は動脈瘤です。
- d: 動脈瘤はclippingで完全に処置されています。
代表症例 60代 男性
前大脳動巨大血栓化動脈瘤に対しtrapping+A3-A3 bypass を行なった症例
左前大脳動脈巨大血栓化動脈瘤の患者様です。ドックで発見されたのですが、放置すると出血のriskが高く根治させるためには動脈瘤を挟み撃ちし 右の前大脳動脈にバイパスを作る必要があり開頭手術を行いました。術後 脳梗塞 静脈還流障害などの合併症もな根治されました。
- A: CTA側面像ですが左前大脳動脈に瘤を認めます。
- B: MRI T2WIで血栓化した巨大瘤(28mm)を認めます。
- C: 術後ですが動脈瘤はtrappingされ対側の血管と側々吻合され血流が保たれています。
- D: 術後脳梗塞等異常は認めず。
代表症例 40代 女性
海綿静脈洞部巨大動脈瘤に対しCAS抜去後にhigh flow bypass+内頸動脈近位遮断を行なった症例
左内頸動脈海綿静脈洞部の巨大動脈瘤の患者様です。他院で血管内治療を行なった際に解離が起き、内頸動脈から総頸動脈にステントが留置されており、当院での治療を希望され来院されました。浅側頭動脈ー中大脳動脈バイパスを行なった後、頸部で内膜剥離術を行いstentを抜去し外頸動脈から中大脳動脈にバイパスを作成し、内頸動脈近位部で結紮遮断しています。CAS後でエフィエントを休薬せずに開頭手術を行ったため止血操作に時間を要しましたが合併症なく自宅退院されています。
- A: 術前面像ですが左内頸動脈に瘤を認めます。
- B: 頸部内頸動脈にステントが留置されています。
- C: 術中所見ですがステントをCEAにより剥離除去できました。
- D: high flow bypassとSTA-bypass後に内頸動脈を遮断しています。
- E: 術後一部に静脈還流障害を認めました。